ロック系バンドでギターアンプのボリュームの大きさをどれくらいにすればいいかわかるたったひとつの冴えたやりかた
しばらく練習してれば、いずれ人前で演奏することになります。
そのときは迫力のあるパフォーマンスがしたい。
というか最低限ほかの人と比較してもショボく見えないようなパフォーマンスがしたい。
そう思うのが自然だと思います。
自分が見たことのあるライヴパフォーマンスのなかでよかったものをイメージしてみると……
- 爆音、少なくともライヴ以外では普段耳にすることのない大音量
- 演奏は録音より荒いけど、それは下手で乱れたり揺れたり失敗しているというようなことではなく、むしろスタジオにはない一期一会の熱いエネルギーを感じるカッコいい演奏だった
- ステージと客席が一体となって特別な時空を共有しているような気がした
こんな感じでしょうか。
この中でとりあえず自分にもできそうだとおもえるのは、はじめにあげている「爆音」ぐらいではないでしょうか。
ほかの項目はどうすればそうなるのか皆目わかりません。調べ方すらわかりません。
こうなってしまうと、とりあえず確実にできることをひたすら頑張ってみるのが人間です。
そして大きすぎる音に自分たちのやっていることがわからなくなってしまっても、じゃあどうすればいいのかもわからないし、仕方なくこういうもんなんだとあきらめて、これまでのやり方をずっと続けてしまうのです。
ぼくもかなり長いあいだ、その時どきの状況に最適だと思える音を、基準も何もわからないながらに、でも真剣に作って演奏していました。
つまりひと言でいえば「適当な音」で演奏してました。
しかし、かなり時間がたってから気づいたのですが、実はわかりやすい簡単な目安があります。
ギターアンプのボリュームは、自分の立ち位置にギターとスネアの音が同じ大きさで届く設定がベスト
目安にすると便利なのが、スネアドラムの大きさです。
自分のギターの音とスネアドラムの音が同じくらいに聞こえる大きさがベストです。
これを上限にすれば、わけがわからなくなるほど音を大きくし過ぎることはありません。
そうすると、ベースの音も、音域が違うせいか、結構いい感じに聞こえてくると思います。
ただしこれは、ベースの音もちょうどいい大きさに設定できていることが前提になります。
ベースは音を大きくしすぎると頭蓋骨の内側で低音が発生しているみたいになって1演奏に支障をきたすので、ギターがスネアドラムを目安にしたのと同じように、バスドラムを目安に音量を調節してください。
このキック2、音が伸びてる?! と思ったらあまりにもシンクロしているベースの音だった、というのが理想のバランスです。
どちらもドラムの音を基準にしているのは、アンプを使っている楽器と違ってつまみを回して音量調節するというわけにはいかないからです。
ぜひ実際に試していただきたいのですが、やってみるとこれまでのセッティングよりも若干音を小さくする人のほうが多いと思います。
迫力は音の大きさに感じているわけではない
迫力のある音というのは、実は大きさではありません。
テレビの音が大きすぎることに気づいて音量を下げた瞬間、まるでテレビと自分の世界が無理矢理きり離されたように感じたことはありませんか?
しかしそのまましばらく見続けていると、いつしか世界はまた一体感を取り戻していましたよね?
実は人間は一定の大きさの音が間断なく鳴っていると、大きさそのものは問題にしなくなるのです。
聞こえる音であれば、その音が鳴っている世界に集中して、そこに自分を没入させることができるのです。
単独ライヴでなければ複数のグループが出演するのが普通なので機材転換の時間があります。
そういう時間はたいてい何も頼まなくてもお店のほうでその日の出演バンドにフィットするアーティストの曲などを流してくれます。
会場のお客さんの居心地が少しでも良くなるように、その日の会場の熱量が少しでもあがるように、お店もできるだけのことをしてくれているわけです。
このとき流す音楽の音量レベルは出演者にくらべるとかなり小さいです。
次の出演バンドが準備を終えるまでの時間に、お客さんの耳は小さく流されている音に完全に最適化されます。
だからバンドの演奏が始まると、それは必ず圧倒的な大音量なのです。
しかもその大音量は百戦錬磨のPAさんがバランスをとってくれたその店で出せる最高のバンドサウンドです。
その「いよいよ始まった」感にお客さんは、日常生活では決して味わえないテンションのあがりかたを感じます。
もちろんステージで演奏する側のテンションはそれ以上に高く、一気に会場が一体になります。
そういうわけで、お客さんのお耳に入る音を迫力あるものにするために出演者ができることは、実はアンプのボリュームをあげることではないのです。
歪ませすぎない、大きくしすぎない
歪みすぎている音は平面的な薄っぺらい音になってしまいます。
刺激が一定で変化に乏しいと、脳は重要なものではないと判断して空気のようにあつかい始めます。
歪みすぎている音は、強く弾いても弱く弾いても変わらない音になってしまううえに、高い音と低い音の違いもあまり感じられなくなってしまうので、聴いている人の耳をすぐにマヒさせてしまいます。
だから歪みは最小限がいいのです。
また、人間の耳には、音が大きすぎると高さの区別が鈍くなっていく性質があります。
このために、大きすぎる音を出している人が、間違えた音を出していることに全然気づかないで演奏しつづけているということがよくあります。
ステージの立ち位置で自分の出している音に刺激をうけて調子にのってさらに刺激的な音をだせればいいので、まず必要なのは、自分がどんな音を出しているのかが聞き取れることです。
そして、自分ひとりで演奏しているわけではないのでほかのメンバーが出している音も聞こえている必要があります。
いずれにしても、自分の演奏に対して即座に手ごたえを感じることができないと演奏が難しくなるので、大きすぎる音も小さすぎる音もバンド全体のサウンドに悪影響があります。
バンドのメンバーが全員モニターの返しなしでお互いの音を聴き取りやすい状態がいちばんいいです。
これができるようになるとPAシステムのないイベントに参加するときでも全然問題なく演奏できます。
ステージの音の作り方がすごかった海外アーティスト
以前、来日した外タレが小さなライヴハウスも回ってくれたときがあり、何ヵ所か一緒に出演したことがありました。
ライヴ当日に開演前の会場で毎回くり広げられるリハの流れは、日本の一般的なリハの常識からすると、驚くべきものでした。
PAさんとの音調整の時間とかが特になかったのです。
演奏の準備ができたメンバーから好き勝手に音を出し始めてて、その様子がほとんどやんちゃ坊主みたいな感じだったからか、PAさんも全員が準備できるのを待つことなく音を出し始めた楽器から音量レベルをとり始めてて、そうこうしながらやがて全員の準備が完了した外タレバンドは特に何も打ち合わせることなくみなおもむろに誰かが始めた曲に合わせだしますが、これがいきなりもう本気の演奏ですでにライヴなんですよ。
ライヴ前にこんなに本気で本番と変わらない演奏をしちゃって大丈夫なんだろうかと思いました。
で、演奏しながらPAさんの調整はガン無視で余裕でどんどんアンプのボリュームをいじっちゃう。
そうして何曲か演奏するうちに、バンドの音がどんどんしまっていく。
どんどん引き締まった演奏になって、どんどん鋭い音になり、メンバーもどんどん演奏にのめりこんでいく。
これを初めて見たときはほんとに驚きました。
リハを見ていた対バンたちも、みんな思わず手をたたきながら歓声をあげてました。
ステージ上で鳴っている音のバランスがバッチリとれているので、会場のメインスピーカからでてくる音も実に素直で透明感があり、だからこそステージ上のエネルギーが何のフイルターも通さずに直接伝わってくるような、そういう生々しい迫力がありました。
ぼくはこのことでいろんなことがわかりました。
- バンドが出している音量バランスがある程度とれていないと、PAさんがいくら頑張っても音は良くならない。
頑張ってつじつまをあわせてもらっても、衝撃的な音にはならないです。 - 自分たちのやりやすい音は、演奏しながらちょっとボリュームを調整するだけでピタリと見つかることがあるから、いつでも最適な音をさがしていたほうがいい。
ちょっとの違いが大きな差を生みます。 - そもそも普段リハーサルスタジオで練習しているときからライヴを想定した音作りやステージングをする。
ライヴのときに練習と違うことをするなんてなんのための練習か、っていう話です。 - リハで本番と変わらない全力のパフォーマンスをしても全然問題ない。
なぜなら、本番はお客さんのパフォーマンス(反応)が上乗せされて、さらなる高みを見ることになるからです。
バンドが出している素の音で世界観を打ち出すということ
外タレのステージの音の作り方をみて思い出されたのがガレージです。
考えてみれば「ガレージロック」って、日本の住宅事情ではなかなか厳しいものがありますが、バンドを始めるときの本来の姿ですよね。
なにが本来かといって、自分たちの楽器以外に機材がないところです。普段練習しているガレージがそのままステージになる日もあったりします。
その様子がいい感じだったりすると、たまたま演奏を見た人が「いいね、次もまた見たいな」ということになり、そのうち「ウチのイベントに出演してもらいたいな」ということになったりして、だんだん本格的になっていくわけです。
そして数千人規模の大勢のひとが集まるようになってはじめてPAシステムがないと厳しいということになるのです。
まだPAシステムが発展途上だった時代はアンプを並べてとにかく大きな音を出そうとしていました。
ちなみに、20世紀のロックバンドがスピーカーキャビネットで巨大な壁を作っているところを目にしたことがあるかたもいらっしゃるかと思いますが、あれはPAシステムの発達が不十分だった時代のなごりです。
現代はごく小さいライヴハウスでもPA完備です。
バンドのメンバーがそれぞれ好き勝手な音量で演奏してもなんとかなったりしちゃいます。
でもよく考えてくださいね。メインスピーカーの音が一番大きいからといって、ステージ上の音が客席に届いていないと思うのは完全に勘違いしています。
ガレージから話題になっていったバンドは素のバンド音だけで勝負してました。
新時代のパイオニアたちが新たな地平を切り拓くとき、そこにあったのはいつでも素のバンド音です。
バンドの音作りを感覚的につかむ方法
まずバンドとして締まった演奏ができるようになるのが先決で、締まった演奏ができるということはメンバーがお互いの音をしっかり聴けているということですから、それでバンドに最適な音量バランスになっています。
その最適な音量バランスを、実際に人前で演奏する会場のステージなどで再現できればいいのです。
では、その肝心の絞まった演奏というのをするためには具体的にどうすればいいのか? これは簡単です。
この記事の前半では、スネアドラムの音量をガイドにしてギターアンプのボリュームを設定すると書きました。
この方法は練習を始めるときや、初めてのライヴハウスで音を出し始めるときなんかに、迷わずぱっと大きさを決められるので重宝します。
それにしても、練習中に演奏している曲の手応えがどことなく遠くに感じたり、ライヴハウスで本番を迎えたときに、リハであれだけ鳴っていた会場の反響音がお客さんに全部吸われてステージの音が妙にさみしく感じたりすることはよくあります。
そんなときは上のほうで紹介した外タレのようにかまわずどんどん調整しましょう。
演奏中に意味がある調整ができるようになるには、いくつか調整用の演奏を持っておくといいです。
といっても特別なものではなく、普段の練習で慣れ親しんでる曲をとおして確認する、というシンプルなものです。
ただ、いくつかタイプの違う曲で観点を変えながら調整するのがポイントで、複数の観点で調整することで音空間を立体的に把握できるようになっていきます。
- バンド全体がほぼユニゾンで演奏する曲で音圧を出せているか?
- あるパートがリードしていて、ほかのパートはバックで支えているとき、リードしているパートがちゃんと耳にクローズアップされて聞こえるか?
- ベースの音高が下がってギターは逆に上がっていくようなところで、空間の奥行きが増していくような拡がりを感じることができるか?
こういった、自分たちのバンドにフィットする観点でバランスを確認できる曲をいくつか選んでおいて、持ちネタのようにどこでも活用しているうちに、どんどん演奏がしまっていきます。
また、ちょっとした工夫で音がよくなったり、演奏しやすくなったことがあったらそれを覚えておいてください。
- 曲の進行感はあるんだけどなんとなく元気がないというか、色彩感に欠けるというか、しょぼいというか、そういうときはベースが大き過ぎるかギターが小さすぎることが多いので、ギターを大きくしてみます。
- アタックのインパクトはあるのになんか音が軽いとか、耳をつんざく感じはあるのにからだに音圧の衝撃を感じないとか、曲の緩急にあわせて押したり引いたりしてるのに効果的な抑揚がつかないときとかは、ベースが小さすぎることが多いので大きくすると
- 迫力のある演奏はできている。演奏していて手応えも感じられる。だけど、ここがカッコいいところだと思っているところを褒められない。こういうときは全体的に音が大きくなりすぎて聴いてるほうもよくわからなくなっているパターンなので、一度思い切って全体的にアンプのボリュームを下げてみましょう。
いろいろ工夫しているうちにこのようなノウハウが知らずしらずのうちに蓄積されていくことで、そのバンドのテイストが濃縮されていきます。
しばらく前の演奏を振り返ったときに、ずいぶん違ってきてることがわかったりするのがほんとにおもしろいので、動画なりなんなり自分たちの演奏の記録を残しておくといいですよ。