ブリッジ・ミュートのダウン・ピッキングを迫力ある重低音で鳴らすコツ
どんな曲でもブリッジ・ミュートのダウンピッキングを使用している部分はお腹に響くような重低音で鳴らすと、まるで違う曲を演奏しているかのように迫力がでてきます。
重低音で鳴らすにはコツがあります。
コツはずばり、「ブリッジ・ミュートはブリッジ近くの最適な位置をキープしつつ、ピックが弦をヒットするポイントはなるべくネックよりにする」ことです。
ブリッジ・ミュートは弦振動をおさえて高音域をとりさり、低音域の残響だけ残します。
ネックよりの位置で弦をヒットするのは、音が太くなるからです。
上に書いたブリッジ・ミュートとピッキングの位置についてこれから説明をします。
この説明を読めば、この記事の最後のほうに埋め込んだメタリカのギタリスト、カーク・ハメットによる教則ビデオの動画で、彼が必要なサウンドと効果にあわせて弦をヒットするポイントを使い分けているのがよくわかり、自分の演奏にも自然に反映できるようになるので、気合の入った音を出したい人はぜひご覧ください。
ブリッジ・ミュートによるアタックと低音の強調
ブリッジ・ミュートはもともと、ピチカート奏法をシミュレートしたり、スタッカートを表現するために使用されていました。
やがてエレキ・ギターが発明され、ギター・アンプの開発が進んでくると、歪ませた音が一般的になってきます。
歪んだ音は、そのコンプレッサー効果で倍音成分も持ち上げられるようになり、シンプルなコードでも色彩感のある演奏ができるようになります。
この色彩感はすごいですよ。
乱暴な言いかたですが、音が歪んでたら複雑なコードも単純なコードも聴感上たいした違いはない、ということがよくわかりますね。
単純なコードの最たるものはパワー・コードということになりますが、メタル系のサウンドはとりあえずこのパワー・コードとブリッジ・ミュートを効かせた演奏ができればたいていの曲が弾けます。
コードがシンプルになればなるほど、弾かない(というか楽音としては鳴らさない)弦も増えるのですが、歪んだサウンドにしているときにその弾かない弦が勝手に音を出していることがよくあるんですね。
生ギターでは倍音が共鳴して、ピアノのラウド・ペダルのような効果をあげることもあったりするのですが、メタル系でそんな演奏の仕方をしてもまずちゃんとサウンドしません。
だから鳴らしたい弦以外は鳴らさないように気をつける必要があります。
歪ませた音で迫力ある演奏をしようと思ったら、出したい音以外は出してはいけません。
音色そのものがすでにド迫力なので、余計な音が同時に鳴ると何をやっているのかわからなくなり、簡単に騒音と化してしまいます。
騒音だと思われたくない、余計な音を出さないようにしたい、強調したい音だけ際立たせたい、そういうニーズからブリッジ・ミュートが歪んだ音で演奏するときのデフォルトのフォームになっていったのです。
メタルの誕生
ブリッジ・ミュートを常用しているうちに、ハーフ・ミュート状態で鳴らした低音弦からすごい重低音がしてくることに気づいた一派がこれを多用し始めます。
全音域が出っぱなしのときは高音域と相殺されていた低音域が、高音域がなくなることによっておもいっきり前に出てくるようになったのです。
こうしてメタル系が誕生します。
つまり何かを突出させたのではなくて、むしろ削り込んだ結果なんですね。
ちなみにこれ(削り込み)をさらに徹底的に押し進めたのがスラッシュ・メタルで、スラッシュという言葉からもわかるように、エッジを効かせたサウンドです。
ブリッジ・ミュートは音のギラギラ成分をおさえるという話をしてきたのにスラッシュ・メタルがエッジを強調しているというと矛盾を感じるかたもいると思います。
実はブリッジミュートは弦の振動そのものをおさえるので、弦が発する音量は小さくなります。
しかしこのときピックが弦にあたるアタック音はブリッジミュートをしているかいないかに関係なく、そのあたりかた次第で弦の振動とは無関係につねに鳴っています。
そして弦の振動で鳴っている音量が小さくても、歪ませた音のコンプレッサー効果でブーストされ聴感上はブリッジ・ミュートなしで演奏したときと変わらない音量でアンプから音が出ます。
アンプから出ている音は、高音域がおさえられて低音域が強調されているうえにアタック音はそのまま出力されます。
つまりザクザクと切り裂くようなアタック音とお腹に響く重低音がするということです。
メタル系以降、ブリッジ・ミュートはもっぱら音をギラつかせる成分を取り除き、おなかに響く重低音を強調するために使われるようになりました。
ネックよりの位置でピッキングすると音が太くなる2つの理由
ネックよりの位置でピッキングすると音が太くなる理由は2つあります。
理由その1:位置の違いによる音質の違い
ピック・アップセレクターで確認する方法
ギターにピックアップ・セレクターがついていたらフロント・ピックアップにして弾いてみてください。
リアピックアップにくらべるとずいぶん太い音になったと思います。
かつて「ウーマン・トーン」と呼ばれた太くて甘い音はハムバッキングのフロント・ピックアップからさらにトーンを絞ってつくり出されたサウンドでした。
以下の動画では「ウーマン・トーン」について質問されたエリック・クラプトンが解説と実演をしてくれているので、フロント・ピックアップの音の太さがよくわかると思います。
1:32あたりから解説がはじまり、実演は2:02あたりからです。
ガンズ・アンド・ローゼズの「スイート・チャイルド・オ・マイン」のイントロもフロントピックアップでの演奏です。
こちらはトーンをしぼっていないので、演奏の気合いがそのまま伝わる骨太な音です。
実際にピッキングする位置で確認する方法
実はこちらがもともとの方法で、生ギターで音色を変えるテクニックとして使われてきたやりかたです。
ここでは音質の違いを確認するのが目的なので大げさにやります。
まずブリッジになるべく近いところをピッキングして大きめの音を鳴らしてください。
そして出ている音の感じを覚えてください。
次にネックギリギリのあたりでピッキングして音を比べます。
ブリッジ側でピッキングしたときはギラギラした、硬く鋭い尖った刃物のような音がするのに比べて、ネック側のほうは刃物ではなく鈍器のようなパワーを感じさせる図太いサウンドです。
ピッキングの位置をネックに近くするほど音が太くなり、もともとブリッジミュートでカットしようとしているギラつき成分も抑えられることがわかると思います。
理由その2:ピッキング・アングルが平行に近くなり楽器をよく鳴らすことができる
ふたつめの理由はピックが弦にあたるときのアングルがより平行に近くなるからです。
ピックが弦にあたるときに角度がついているほどピッキングの抵抗が少なくなります。
抵抗が少ないということは弦の位置をあまり動かさずにピックが通り抜けていくということです。
つまり弦をあまり振動させずにピッキングが完了するということになります。
この場合、アタック音そのものは弦の位置が変わることによる振動とは関係ないので聞こえてきますが、弦がそもそもあまり振動していないので、前に出てくるはずの重低音が出てきません。
アタックばかりで腰のない音になり、どうかすると音程感のないノイズに近いものになってしまいます。
弦をしっかり鳴らしたいなら、ピッキングによってしっかり弦の位置を動かす必要があり1、それにはある程度の抵抗を感じるアングルでピッキングをする必要があるということです。
そうするとアタックが自然に強くなって迫力がでてきますし、弦はその性質をいかんなく発揮できるだけ振動します。
そしてブリッジ・ミュートを効かせながらネックよりでピッキングしようとするとき、ピッキングのアングルはそうと意識しなくても手の構造上かってに平行に近くなります。
こうして音に迫力がでてくるのです。
ブリッジ・ミュートのダウン・ピッキングで迫力ある重低音を出したい場合のからだの使いかた
ところで実際演奏するときに、「えーっと、ブリッジ・ミュートで迫力ある重低音を出したいときはピッキングする位置をなるべくネックよりにして……」なんて考えてるヒマはありません。
というかそんなこと考えて弾いている人なんていません。
では何を考えて弾いているのでしょうか?
出したい音をイメージして弾いています。
出てくる音をイメージしながら演奏していると、イメージと演奏がやがて直結するようになるのです。
そして、音のイメージだけでなく、からだの使いかたのほうにもイメージを持つようにすると、からだが音にあわせにいってるのがわかるようになるので、上達が早くなります。
上達が早くなるだけでなく、音楽的な表現の何たるかがカラダでわかるようになるので、音のイメージとからだの使いかたを両方ともイメージする演奏は超オススメです。
ブリッジミュートのダウンピッキングで迫力ある重低音を出したい場合のからだの使いかたは、からだにかかる重力を親指経由でピックに集めて、その一点に集まった重みを弦にそのまま伝えるイメージです。
簡単に一言でいうと、「からだの重みを親指で弦に載せる」ということです。
親指を使って指圧をするとき(体重をのせてマッサージしようとするときなんか特に)、親指の腹でもみほぐすと思います。
これと一緒で重低音を出そうとするときに自分の体重を親指から弦に伝えようとすると、親指の腹でプッシュする感じになるので、自然にピッキング・アングルが平行に近くなり、弦をヒットするポイントはネックよりになります。
ブリッジ・ミュートのダウン・ピッキングをすると腕が痛くなるなどからだに違和感を感じる場合はピックの持ちかたを見直すのが吉
腕の筋肉が痛くなったりする人はピックの持ちかたを変えると痛みがなくなります。
自分のからだの使いかたにあったピックの持ちかたができていないと、からだの別なところを動員してピックの持ちかたの至らなさをカバーしようとするので、変なところが痛くなってしまうのです。
スラッシュ・メタルの黎明期にキャリアをスタートしたメタリカは、全米各地のあらゆるハコでライブする地道なツアーを何度もすることでじょじょにその名を知られるようになりました。
そんなメタリカは理想的なからだの使いかたができていればこそ、連日連夜長時間の演奏をしてもなんら支障が起きなかったわけで、どこかが痛くなってしまうようなやり方では現在のように音楽史に名を残すことはなかったでしょう。
自分のからだにあったピックの持ちかたは『ピックの持ち方。この方法で自分のからだにぴったりあう持ち方が一発でわかります』という記事に書きましたので、痛みや疲れやだるさを感じる人はもう一度見直してみることをおすすめします。
この記事の方法でピックを持つと、手の重さ自体を利用し、しかもその重みをまるごと弦に伝えられるピッキングができるようになります。
ちなみにこれはメタリカのギター・ヴォーカルであるジェイムズ・ヘットフィールドと同じ持ちかたになります。
メタリカのギタリスト、カーク・ハメット本人によるメタリカのリフのお手本演奏
ここに埋め込んだ動画は、メタリカのギタリスト、カーク・ハメット本人がメタリカのリフの弾き方を実演する教則ビデオです。
- ブリッジ・ミュートのダウン・ピッキング(「ズンズン」重低音)のときはネックよりの位置で平行に近いアングルのピッキング
- ブリッジ・ミュートのオルタネイト・ピッキング(「ズクズク」刻みのエッジ)のときはダウン・ピッキングよりもブリッジよりの位置でアングルを深くした(抵抗をすくなく摩擦をふやす)ピッキング
- ブリッジ・ミュートをかけないときはブリッジよりの位置で手首を振り抜く(振り抜く動作でブリッジ・ミュートが勝手にはずれることを利用する)ピッキング
こういったことがよくわかる映像になっています。見事に理にかなっていますね。
ちなみに Master of Pappets の2パターン目のリフの演奏が、世間に流布している単純な6弦開放のペダル・ポイントではなく、本当はもっと全然複雑でまがまがしささえ感じられる、つねに半音上行の動きがからんだ難易度が高いリフだということが、お手本演奏でわかると思います。
ぼくもてっきり単純なほうのパターンで弾けていた気になっていたので、この動画を初めて見たときは驚きました。
「俺『マスター』弾けるよ」といっている人も本当のリフだと弾けない人が結構いると思います。
ブリッジ・ミュートのダウン・ピッキングを迫力ある重低音で鳴らすコツまとめ
ながながといろいろ書いてきましたが、コツそのものはごくシンプルで、たったこれだけです。
- 親指に体重を集めてその重みをそのまま弦に伝える(ようなイメージで演奏する)
- ブリッジ・ミュートはブリッジ近くの最適な位置(高音域が抑えられ低音域の残響が残る位置)をキープする
- するとピッキングの位置が自然にネックよりになり音が太く重くなる
この3つのコツを体感しながら演奏しているだけで、音をとおして重みを伝えられるようになります。
お試しあれ。
-
動かされた弦が元の位置に戻る動きを利用して弦を振動させるのが撥弦楽器の発音原理です。引き絞られた弓が矢を射た瞬間もとに戻るイメージです。 ↩︎