新JIS配列は覚えやすくて入力が楽
日本語の文章をパソコンで効率的に入力するための配列を探して、いろいろ考えたのですが、新JIS配列を使ってみることにしました。
配列を探すことになったいきさつは、『月配列E-Xの使用を中止することにした』に書いたのですが、そのときは手の小さい僕でも使いやすい月配列系を探すつもりでした。
たどりついたのはどういうわけかphoenixかな配列でした。
phoenixかな配列は行段系
phoenixかな配列は行段系といわれるタイプです。行段系とは、行を指定するキーと段を指定するキーを組み合わせることで文字を出す入力方法です。たとえば「か」と入力する場合は、まず「か行」に対応するキーを打鍵して、次に「あ段」に対応するキーを打鍵します。ローマ字入力が子音と母音の組み合わせで入力するのとほとんど同じです。
ローマ字入力との仕組みの違いは、母音が単打で入力できないことです。ローマ字入力で「え」と入力するときは e キーを打鍵するだけですが、phoenixかな配列の場合は、「あ行」を指定する d と「え段」を指定する ; の2つのキーを打鍵する必要があります。だから「行」「段」系なんですね。
phoenixかな配列は母音も小書きのかなも2打鍵必要なので、入力のために使用するキーの数はローマ字入力より多くなります。「秒」と入力したい場合、ローマ字入力ではbyouと4つのキーを打鍵するところが、phoenixかな配列ではruwodhと6つになります。
ローマ字入力よりも効率よく日本語の文章を書きたいと思って別の入力方式を探し始めたのに、なぜローマ字よりも打鍵数が多いphoenixかな配列にたどりついたのか。それはphoenixかな配列が同時打鍵に対応しているからです。
phoenixかな配列は逐次打鍵だけど同時打鍵対応
同時打鍵に対応しているといっても本当の同時打鍵ではありません。作者も同時打鍵に対応しようと考えたわけではありません。同時打鍵とおなじやりかたで入力できるというだけです。
もともと左手で行を指定してから右手で段を指定する交互打鍵を想定してデザインされています。作者のかたは打鍵が高速になってきたとき、利き手である右手が左手の順番を追い抜いて打鍵してしまうという経験をされたみたいです。順番がひっくりかえってしまっても大丈夫なように逆順の設定も追加したということです。
実態は逐次打鍵なので同時打鍵の判定がありませんから、原理的に誤判定はありえません。親指シフトのときのように同時判定に気をつけなくても同時打鍵で入力できます。
ということは、行段系の配列なのに1文字1動作で入力できるということになります。しかも使用するキーはホーム段の10キーとその上段の10キーの20キーだけです。これはすごい。
と思ったのですが、ghtyの、人差し指ストレッチがかなり頻繁にでてきそうな感じです。
phoenixかな配列は人差し指ストレッチがかなり頻繁にでてくる
配列表をながめると「です」「ます」と書くときにかならずストレッチになってしまいます。しかもどちらも小指と人差し指の組み合わせです。つまりとにかく一番遠い。このブログは「です」「ます」が頻出なので常用したらちょっと大変そうです。
じゃあ、常用するカナがストレッチにならない配置の設定ファイルを自分で作ってしまえばいいのでは? と気づいてしまったのですが、難しいものですね。
自作配列にのりだすも完成した配列の難易度が高すぎて没
キーから指を離すことなく入力できるのが理想ですが、行は多数あるのでしかたないにしても、段にしたって使える指の数よりも多いので、指は必ず複数のキーを打鍵しなければなりません。
あちらをたてればこちらがたたず、ある場合に良い配置が別の場合はうちづらいということになってしまいます。
ほかの行段系配列では入力しやすくするためにどんな観点でどんな作戦をとっているのか調べてみたところ、ヤ行を母音扱いにして拗音入力を効率化したり、連母音や、母音に「ん」が連なる音を個別のキーに設定して打鍵数の減少をはかったりといった様々な工夫がありました。
みなさんのお知恵を拝借しつつphoenix同時打鍵方式で設定できる配列を考えました。最終的には 32 キープラス shift キーを使う、やたらに大掛かりなものに仕上がりました。
そして実際に設定して入力してみると…… これがめちゃめちゃ難しいのです。さんざんあーでもないこーでもないと考えたので配置はすべて頭に入っているのにもかかわらず、ちょっとした文を入力するのにえらく時間がかかります。
そしてこの段階まできてからやっと気づきました。1文字1動作で入力することにこだわりすぎて、1文字入力するためにかならず2キーを打鍵する設計になっているので、両手が同時にアルペジオできる連接に偶然なっていたときを除くと速度がでません。
長時間の巡航入力速度ではショパンの英雄ポロネーズ中間部の左手オクターブ連打ぐらいの速度がいいところだと思います。
動作を覚えるのが難しく、完全に覚えたとしても入力が楽になるものかどうかわからず、しかもあまり速度がでないので、自作配列はここであきらめることにしました。
自作配列作成をとおしてわかったことはあたりまえのことだった
ただ、自作配列作成をとおして左右の各指をフルに入力に使えたほうがいい、つまり単打で打てる文字が多ければ多いほど楽で速いことがわかりました。でも、こうしてわかったことを実際に文にしてみるとなんだかあまりにも当たり前なことをいってしまっていますね。
この観点だけでみると、JISかな配列が最強ということになってしまいますが、使用するキーの範囲が広すぎてミスすることなく入力するのが難しそうです。
そこで打鍵範囲を3段だけに限定するなどして難易度を下げることになるわけです。そうするとキーが足りなくなるので、1キーに複数のカナを割り当てるシフト機構がかならず必要になります。どんなタイプのシフト機構を選ぶかは配列選びで重要な部分です。
紆余曲折を経て、あらためて検討したとき、新JIS配列の素晴らしさに気づく
僕が親指シフトを使っていたときは、今使っているキーボードが壊れたら別のキーボードで親指シフトを継続できるのかが不安でした。そしてシフト文字が連続するときに手がバタつくのが不満でした。
キーボードを選ばないという意味で新下駄配列はよさそうだったのですが、エミュレータを使用できない環境では使えません。環境が変わったときに入力できなくなってしまうのがイヤなので選択肢から外しました。
そしてローマ字テーブルの設定だけで使える配列ならたいてい大丈夫だろうと考えて月配列系を再検討したとき、新JIS配列が僕の希望の配列に近いことに気づきました。
両手の4指すべてがそれぞれ文字を狙ってバラバラに動かせますし、ローマ字のように2ストローク必要なのは濁音半濁音だけです。シフト面の入力が連続しても手がバタつくことはありません。後発なのにもかかわらずいっときJIS規格になっているだけあってキー配列も一般人がつかいやすいように磨き抜かれていて、記憶量も少なくすみます。これらについて以下にもうちょっと詳しめに書いてみます。
新JIS配列はシフト面が一枚だけ
新JIS配列はシフト面が一枚だけです。そしてここがかなり素晴らしいところなのですが、shift キーでシフトするので、シフト面の文字が連続するときにshiftキーを押したままつづけて入力することができます。
親指シフトを使う前の4~5年間くらいは日本語入力に SKK を使っていました。もちろん SandS 利用です。だから打鍵中に shift を頻繁に挟み込んで入力することに抵抗はありません。ほとんど同時打鍵に近い感覚で打鍵できます。
記憶量は清濁分置タイプの配列の半分くらい
濁点後付け方式は手書きに近いですし、常に決まった濁点キーを使うので必ずロールオーバーするということで打鍵数に目をつぶれば、覚える文字位置の量は清濁分置タイプの配列に比較して、体感では半分です。
連続シフトで運指効率がいい
打鍵動作としては月配列系の中指前置式シフト操作より親指シフトや SKK 使用時の動作に近く、動作数と出力文字数の対応感覚では親指シフトに近い、そして連続シフトできる点が中指シフト・親指シフトよりも効率的です。
配列そのものの設計方法がすごい
なにより一番重要な配列そのものの設計方法がすごいです。詳細は wikipedia の「新JIS配列」を参照いただくのがいいのですが、簡単に列挙するとこういう感じです。
- 高校教科書9冊分130万文字や天声人語16万語を含む数百万字の資料を文字データとする
- キー間の打鍵所要時間を得るために、女子大学生7人に380万文字を入力させて指の運動特性を測定
- 文字データと運動特性データをもとにコンピューターで計算して打鍵時間が短くなる配列を選別する
- 作成された配列は人間による入力実験を通じて評価する
ものすごくとんがった配列(たとえば超高速だけど習得難易度が高いというような配列)を作るというより、不特定多数の人が無理なく効率的に入力できる配列を作ろうとしていることがよくわかりますね。
新JIS配列の素晴らしさをひとことで伝えるなら「バランスがすごくいい」
新JIS配列はバランスがいいので、手をこわすことなく長時間効率的に入力できます。
しばらく新JIS配列を使ってみようと思います。
親指シフトのときもこの方法だったらあんなに長くトレーニングしなくてよかったかも知れません。