ピエール・ボナール展(オルセー美術館特別企画)@国立新美術館
ピエール・ボナール展にいってきました。
会場は混雑していなくて、見やすかったです。どの絵の前でも4人くらいが鑑賞している程度でした。平日にいったからだと思います。
会場は6章に見立てたブロックで構成されています。完全に年代順というわけではなく方向性が近い作品でグルーピングしたもののようです。
1章 日本かぶれのナビ
最初のほうの見返り美人ぽい装飾パネル「庭の女性たち」や、屏風絵風の「乳母たちの散歩、辻馬車の列」を見ると、平面的なところや大胆な余白に、なるほど「日本かぶれ」といわれるわけだ、とついついなってしまいそうになります。
「白い猫」は姿形を写し取るところに関心がないことが伝わってきます。「砂遊びをする子ども」も世界をそのまま切り取ったものではなく、何をみつけたかをあらわしているようにみえます。日本画や墨絵では表現を削ぎ落として研ぎ澄まします。鑑賞者が自然に作者のフォーカスとシンクロするのはこのためでしょう。
2章 ナビ派時代のグラフィック・アート
グラフィック・アートのところをみると単純な日本かぶれというだけではすまないことがわかります。このカテゴリにあるものは「フランス=シャンパーニュ」もふくめて日本かぶれといわれた時代があったからこそのものだと思いますが、最小限の線と色で、地と図がひっくりかえる感じがあったりすごすぎます。
3章 スナップショット
スナップショットのところでは、ピエール・ボナールが撮影した写真が展示してあります。画家が自分で撮影した写真をまとめて展示しているのは珍しいのではないでしょうか。絵は時間が凝縮されて畳み込まれているようですが、写真の場合はある瞬間そこに存在していた撮影者が世界をどういうふうに捉えていたのかが垣間見えるように思います。
4章 近代の水の精たち
近代の水の精たち、というのはようするに女性が入浴しているところを描いた絵がまとめて展示されているのですが、日本画の余白とフォーカス、スナップショットに見えた世界の捉え方が絵にあらわれているように思います。人生はほとんど当たり前のことばかりですが、それぞれの人生は絶対にユニークです。つまりおなじ瞬間はひとつもないんだということが、これらの絵からなぜか伝わってきました。
5章 室内と静物「芸術作品──時間の静止」
「芸術作品──時間の静止」というタイトルは言葉尻だけ考えると芸術のそもそもをひもとかなければならなくなるわけですが、実際に展示してある作品を見れば何をいわんとしているか、一目瞭然でした。子どものころに住んでいた家とか近所の様子とか、どうということもない光景なのになぜか心にこびりついて離れないってことがありますよね? ある瞬間をそんなふうにとっておきたいと思って書いたんですよきっと。冒頭のパンフレットの右側にある、奥さんと白猫の絵もその一つです。
6章 ノルマンディーやその他の風景
パリから引っ越して風景画をかくようになってからの絵がまたものすごく温かいものになっています。本人は「色に圧倒されて形が崩れてしまう。デッサンを最初からやりなおさないといけない」といっていたそうです。世紀末のパリのころがいかに暗い雰囲気だったかということでしょうか?
「南フランスのテラス」なんて、タイトルだけでもかなりバカンスを醸し出していますが、実際、絵がとてつもなく明るくて、翳りが少しもなく、この人の世界がまたもう一つひろがったんだなあ、としみじみ感じました。死についての暗いイメージがなくなって、刹那的ではなく受容的になっていったということなのかも知れません。
終わりなき夏
ピエール・ボナールさんの全体の歩みとしてはこんな感じでしょうか?
- フォーカスについては人間から、静物をへて、風景そのものへ
- モチーフについては日本にかぶれたあとで、日常の一コマにうつり、色彩そのものへ
どちらもたどり着いたさきが見たまんまの自然の光景だったというところに人間としてのスケールの大きさを感じます。
ピエール・ボナール展の基本情報
下記は開催概要から主要部分を引用したものです。変更があるかも知れませんので、念のため公式ページを確認されることをおすすめいたします。
項目 | 情報 |
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会期 | 2018年9月26日(水)~ 12月17日(月) |
休館日 | 毎週火曜日 |
開館時間 | 10:00~18:00 毎週金・土曜日は20:00まで。 *入場は閉館の30分前まで。 |
会場 | 国立新美術館 企画展示室 1E 〒106-8558 東京都港区六本木 7-22-2 |