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わかりやすい文章を速く書くための日本語の語順

文を書くのにかかる時間が短時間で済めばいろいろなことができます。

書いている時間の大部分を占めているのはどう書くか考える時間ですよね? その場合どう書くか考える時間を短くすることが一番効果的です。

そこで、どう書くのがいいか迷わないように、定石を調べておくことにしました。

そもそもの動機

まわりで仕事している人たちはみんな僕より速く文を書いているような気がします。

というよりは自分が文を書くのに時間がかかりすぎていると感じています。一気に書き上げることができません。全体を一気に書き上げることができないのはもちろん、たとえ一文だったとしても一発で最後までタイプできることはありません。

一文を書いている途中に「先にこの言葉をいれておいたほうがいいかな?」と行ったり来たりしています。だから漢字変換はだいたい文節単位です。

このままでは文章のリズムもクソもありません。熱くなって一気に書き上げてしまうなんてことは一生かかってもできっこないでしょう。せめて句読点単位の漢字変換で書けるようになりたい。何かが伝わる文章は書いた人の熱量がすごいからです。

作品と熱量の関係については『文章の勢いと才能について、または名作を書くということ』にも書きました。

#文章

文章の勢いと才能について、または名作を書くということ

とにかく書ききって、あとから見直す。すると書き直したくなる。書き直したくなるということはあなたはもうすでに作家です、と大江健三郎さんが書いています。村上春樹さんもとにかく一度最後まで書いて、それを何度でも直すことだといっています。良いものが書けるかどうかは結局才能によるし、それは書いてみないとわからないともいってました。

ぼくは右利きです。右手で箸を使い、右足でサッカーボールを蹴り、走って逃げるときは左に曲がることが多いです。利き手利き足があることで動作の精度を高められるうえ、その動作を短期間で身につけられる、という説を聞いたことがあります。

文章でも型のようなものを身につけてしまえば無駄な行ったり来たりを根絶できそうな気がします。

毎日ブログを更新しているような人はきっと自分の型を持っています。そうでなければ長期間更新をつづけることは難しいでしょう。

速筆で有名な多作作家の森博嗣さんは、大学の卒論のとき指導教官に「てにをは」の使い方から直してもらって文章の書き方をおぼえた、とどこかに書いていました。

ということは、わかりやすいとされている語順を調べて常にその語順で言葉を組み立てられるように訓練すればかなり速く書けるようになるのでは?

たぶん最初は不自由な感じがすると思います。余計に書けなくなるかもしれない。でもこれまでだって頭に浮かんでいるイメージをどこまで言葉に変換できていたといえるのでしょうか。いつだって言葉にしてはみるものの、できた言葉はイメージをそのまま伝えられているとは到底言えません。

考えてみればこれまでに書いた一番長い文は学校で書かされた作文です。でも学校の授業で言葉の並び順について話を聞いた記憶はありません(当時興味なくて聞いてなかっただけかも)。

どうせ自分の変換機能は貧弱なんだから、ここはひとつ大リーグボール養成ギプスを使っているつもりになってしばらく試してみよう、ということでわかりやすい日本語の語順を調べることにしました。

わかりやすいとされる語順を調べてみた

分かりやすい語順は原則「いつ」→「どこで」→「誰が」→「誰に」→「何を」→「した」

改善前

・御社の事務所に弊社の井上がご注文いただいたコピー機を一昨日納品しました。
・中国語を中国にいたときには私はあいにく学ぶ機会がなかった。

改善後!

・一昨日御社の事務所に弊社の井上がご注文いただいたコピー機を納品しました。
・中国にいたときには私は中国語を学ぶ機会があいにくなかった。

アイデム人と仕事研究所『わかりやすい文章を書く12のコツ』]]より引用

これです。こういうのを学校でやればいいのに。

そしてこの記事には「1つのひな型としてこの語順を使うのは有効です。特にいろいろな情報が入っていて複雑な文章のときにはぜひ、思い出してみてください」とあります。まるでぼくのねらいのために書いてくれたかのようです。

しかしこの語順よりも優先される例外もあるそうです。 以下の2つのケースもアイデム人と仕事研究所『わかりやすい文章を書く12のコツ』]]からの引用です。

●[ケース1] 主語と述語以外の情報が長い場合
  → 「誰が」「した」を近づける

  は今期大改訂され、ボリュームが3倍になったシステムプログラムを実施した
  ↓
  今期大改訂され、ボリュームが3倍になったシステムプログラムを彼は実施した

●[ケース2] 「それ」「これ」「あれ」などの指示代名詞が指し示す言葉と離れてしまう場合
  → 指し示す言葉の近くに指示代名詞を置く

  佐藤さんが会議でプレゼンをしたプロジェクト内容を、協議の結果、変更することとなった。吉田さんは会議に欠席していたため、それを知らなかった。
  ↓
  佐藤さんが会議でプレゼンをしたプロジェクト内容を、協議の結果、変更することとなった。それを吉田さんは会議に欠席していたため知らなかった。

(引用ここまで)

文がわかりやすくなる法則

この「文がわかりやすくなる法則」についての例文は項目の文も含めて『必ずわかりやすい文章が書けるシンプルな法則(日本語の「文」の構造と読点)』セルフコントロール研究所 ~ ともぞうブログから引用しています。

どの例も読みくらべてみると確かに読みやすくなっています。というよりも法則から外れているほうの文は一回読んだだけではそのまま意味がつかめそうにありません。

テンをうつにもちゃんと明確な理由があることがわかりました。これまではただなんとなく「このへんで点をいれといたほうがいいかな」といった感じでたいした理由もなくいれていました。

以下は引用です。

●修飾する言葉と修飾される言葉はなるべく近づける。

  ぼくは彼女は彼が死ぬまであの人と別れないと思ってた。
  ↓
  彼が死ぬまで彼女はあの人と別れないとぼくは思ってた。

●順番を逆にする場合には読点(、(テン))を入れる。

  彼女はあの人と別れない、彼が死ぬまで。

●長い修飾語ほど前に

  真っ赤なヨダレが出るくらいおいしそうなリンゴ
  ↓
  ヨダレが出るくらいおいしそうな真っ赤なリンゴ

●長い修飾語が二つ以上続いているとき、その境目にテンをうつ。

  彼女を心から愛していたこの俺が悪いことばかりしているあの憎たらしいあいつをいつかきっと苦しめながら殺してやる。
  ↓
  彼女を心から愛していたこの俺が、悪いことばかりしているあの憎たらしいあいつをいつかきっと苦しめながら殺してやる。

(引用ここまで)

日本語の作文技術

いろいろ検索していてたどり着いたのはこの本でした。

<新版>日本語の作文技術 (朝日文庫) 本多 勝一

伝わる文章をどう書けばよいのか、それが書いてある本としてあちこちでみんなおすすめしているので購入しました。間違いありませんでした。以下に引用しますが、引用している文章例にたどり着くまでの説明が素晴らしいので、実際に説明を読んで心から納得できれば自分の自然な感覚として実践していけると思います。この記事のようなアンチョコは作る必要ないかも知れません。

以下引用です。

●修飾・被修飾の距離が離れすぎないこと

  私は A が B が C が死んだ現場にいたと証言したのかと思った。
  ↓
  C が死んだ現場に B がいたと A が証言したのかと私は思った

●節を先に、句を後に

  速くライトを消して止まらずに走る
  ↓
  ライトを消して止まらずに速く走る

●長い修飾語ほど先に、短いほど後に

  チリ美人は、アルゼンチンの肉をたっぷり食べているセニョリータにくらべると、ぐっと小柄である
  ↓
  肉をたっぷり食べているアルゼンチンのセニョリータにくらべると、チリ美人はぐっと小柄である

●大状況・重要内容ほど先に

  豊かな潤いをもえる若葉に初夏の雨が与えた
  ↓
  初夏の雨がもえる若葉に豊かな潤いを与えた

●句読点は字と同じか、それ以上に重要。特に重要な読点については重要な原則は二つ。

  渡辺刑事は血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
  ↓
  渡辺刑事は血まみれになって、逃げ出した賊を追いかけた。
  (長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ)
  or
  渡辺刑事は、血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。
  (語順が逆順の場合にテンをうつ)

引用はここまでです。

ということは例文を逆順でなくするとこうなるというわけですね。 「血まみれになって逃げ出した賊を渡辺刑事は追いかけた。」 誤解の余地がない語順の場合読点はいらないなんて知りませんでした。

日本語における語順の決定について 特殊教育教室 林部英雄

ちょっと変わった観点のものも検索結果にありました。人間のもともとの性質について調べているようで興味深いものをひとつ共有しておこうと思います。

以下は 日本語における語順の決定について 特殊教育教室 林部英雄(PDFです)からの抜粋です。

規則1)話し手は,文の最初に行為者を表す名詞を配置し対象などは文の後の方に置く。
規則2)話し手は,視点の置かれた名詞をそうでないものよりも文頭近くに配置する。
規則3)話し手は,旧情報を新情報よりも文顕近くに配置する。

このように語順が少なくとも三種の要因によって決定されるというのが本論文の結論であるが,そうだとするとこれらの要因の優先順位はどのようになるのかが疑問となる。いまのところこの疑問に対する実験的な解答は得られていないが,筆者の推測では視点が一番優先されるように思われる。

抜粋した規則はどれも「話し手は」から始まりますが、リンク先をよく読んでみると、話を聞いている人が感じている内容であり、だから自分が話すときになると感じていたことが反映された語順になる、ということです。

この規則によれば、わかりやすさよりも自分が価値を感じているものを優先したいときにその思いが語順に表れる、つまり強調したいときに語順が変わることがあるわけです。この語順の違いを吸収するために倒置法などの様々な表現方法があるという説明がやけにわかりやすい。往年のアイドルの名前を例にひいているせいからか、妙な説得力がありました。ぼくの勝手な想像ですが、当時著者本人が中森明菜か小泉今日子のファンだったのではないでしょうか。

調査結果まとめ

こんな養成ギプスを使っていこうと思います。

  • 基本は「いつ」→「どこで」→「誰が」→「誰に」→「何を」→「した」
  • 修飾する言葉と修飾される言葉はなるべく近づける
  • 長い修飾語ほど先に、短いほど後に

でもこのギプスをつかって書いていくときっとはみ出したくなります。 そのときのはみ出しかた。

  • 大状況・重要内容ほど先に
  • 語順が逆順の場合はテンをうつ
  • 長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ

そういえば、ジョージ・ベンソンがギター・マガジンかなんかのインタビュー記事で「今練習していることをステージで演奏できるようになるのは3年後」といっていました。彼はジャズ系プレイヤーなのでアドリブ演奏のことをいっています。ステージのその場の流れに最適なサウンドとして、練習したフレーズが自然にでてくるようになるまでに3年ぐらいかかるという意味です。

文を書くのは演奏ほどフィジカルなものではないので同じではないですが、そのとき流れ出てくるフレーズを積み重ねることでいいたいことを組み立てていくところは同じなので、水源そのものが違ってくるのを楽しみに、まずは養成ギプスを試して見ようと思います。

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Author

naoan

始めるのに遅すぎることはない、とすごい人たちがみんな口をそろえていうので、まにうけて人生たのしもうともいます!